メルセデス・ベンツの新たな最高級少量生産ブランド「ミトス」が目指すのは?
2024.10.03 デイリーコラムメルセデスのハイエンドを新たに定義
メルセデス・ベンツのプロダクトポートフォリオには、現在カスタマーに究極のパフォーマンスを提供するというメルセデスAMG、そして究極のラグジュアリーをもたらすとされるメルセデス・マイバッハという2つのサブブランドが存在する。
すでにこの両ブランドは高級車市場において絶対的な存在感を得ることに成功しているが、メルセデス・ベンツは2022年、メルセデスAMGとマイバッハを超える「超高級コレクターズカー」を手がける新ブランド「Mythos(ミトス)」を立ち上げると発表した。
ミトスとは、ギリシア語で「神話」や「伝説」を意味する言葉。その目指すブランドコンセプトを考えれば、まさに納得のネーミングといえそうだ。
そもそもメルセデス・ベンツが、このミトスブランドを立ち上げた直接の理由は、2026年までに同社の売上高を2019年比で60%増加させるという経営目標を達成することにあった。
収益性の低いコンパクトモデルのラインナップを縮小する一方で、プロダクトポートフォリオのハイエンドに置かれるモデル、すなわち利潤の高いモデルに注力することで、より優れた財務体質を実現。それによって2020年代の半ばまでには営業収益率で14%を達成するという目標を掲げてみせたのだ。
そのために必要とされたのが、メルセデスAMG、あるいはメルセデス・マイバッハよりもさらに高級で高性能な、すなわち新たなメルセデス・ベンツのハ���エンドを定義するミトスというブランドだったのである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テーマは2人乗りのF1マシン
ミトスからの第1弾モデルが、オープントップのスピードスターモデルである可能性が高いことは、2022年の段階で公開されていたプレビュー画像からも確認することができた。
そして2024年5月、ミトスはブランド初のコンセプトカーとなる「コンセプト メルセデスAMGピュアスピード」を正式に発表。近く250台の限定車へと進化するというこのモデルは、メルセデスのエンブレムを掲げたレーシングマシンの伝統を感じさせながらも、極めて革新的なルックスに仕立てられていた。
テーマは2人乗りのF1マシン。その内外装から推察するに、ほぼこのままのデザインで限定生産へと移行する可能性が高い。
メルセデスAMGの「SL」をベースとするコンセプト メルセデスAMGピュアスピードは、マクラーレンのアルティメットシリーズ「エルバ」と同様にフロントウインドスクリーンを持たないだけでなく、F1マシンのような乗員保護装置「ヘイロー」を装備するなどした極めてレーシーな外観が特徴だ。ちなみにそのカスタマーは納車時に、エアロダイナミクスを考慮したヘルメットを2個受け取ることも可能だ。
フロントフェンダー上に描かれるゼッケン「10」は、1924年のタルガフローリオにおいてメルセデス・ベンツが優勝した時の栄光の数字。そのようなヒストリーを熟知するメルセデス・ベンツのファンのなかでも特に造詣の深い、そして最高級の製品を求めるカスタマーのためにミトスブランドはこれからさまざまなモデルを生み出していくことになる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
AMG製の4リッターV8ツインターボエンジンを搭載
コンセプト メルセデスAMGピュアスピードは、現行SL、正確には「メルセデスAMG SL63 4MATIC+」をベースに開発されているが、パワートレインもまた同車のメカニズムに共通している。
ベースモデルよりもさらにロングノーズ化されたフロントのエンジンルームには、585PSの最高出力を発生するメルセデスAMG製の4リッターV8ツインターボエンジンが搭載され、湿式多板クラッチを使用する高性能な9段AMGスピードシフトMCT(マルチ・クラッチ・テクノロジー)を組み合わせている。ここから出力されたトルクは、常時最適な配分値で前後輪に伝達される仕組みだ。
前後ともに5リンク式を採用したサスペンションや、メルセデスAMGの量産車としてはSLで初採用となった油圧式のアクティブスタビライザーなどもこのコンセプト メルセデスAMGピュアスピードに継承されていることは、間違いのないところだろう。
新ブランド、ミトスの誕生で、サブブランドによる製品の高級化、そして高収益化戦略へと舵を切ったメルセデス・ベンツ。ミトスから登場するであろう次なるラインナップにも注目したい。
(文=山崎元裕/写真=メルセデス・ベンツ グループAG/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
山崎 元裕
-
リアルに勝るものなし? 「ディフェンダー」のイベントで“特別”と“世界観”を体感NEW 2024.10.10 「ディフェンダー」のオーナーとファンを対象としたライフスタイル体験イベント「DESTINATION DEFENDER POP-UP IN KARUIZAWA」に参加。そこにはディフェンダーブランドの“特別”と“世界観”が広がっていた。
-
「N-BOXジョイ」にできて「N-BOX」にはできないこと あるいはその反対 2024.10.9 主役は遅れて……ということで、ホンダが「N-BOXジョイ」をリリースした。「N-BOX」にアウトドア要素を加えたかのような軽スーパーハイトワゴンだが、果たしてN-BOXとは違うどんな体験ができるのか、逆にN-BOXから失われた点はないのかを検証した。
-
車名はちがえど中身はいっしょ “OEM車”はなぜ存在しつづけるのか? 2024.10.7 あなたは、バッジを貼り替えただけのいわゆる“OEM車”にどんな印象を持っているだろうか? 見ようによっては違和感のあるこの商品がどうして存在するのか、新型軽「スバル・シフォン トライ」のデビューを機会に考えてみよう。
-
FCVは未来の主役にはなり得ない? 夢の水素カーが抱える課題とまっとうな普及の在り方 2024.10.4 トヨタとBMWが燃料電池車(FCV)の普及や水素インフラの整備について協業を発表した。一時は「未来の自動車」としてもてはやされたFCVだが、普及へ向けた準備は進んでいるのか? 無理のない社会実装の在り方とは? 欧州の事情もくみつつ考察する。
-
だから価格がぐんぐん上がる!? 近年で装着が義務化されたクルマの装備 2024.10.2 扱い方を少しでも間違えれば自動車が凶器になってしまうのはご承知のとおり。近年ではそれを防ぐため、新車への装着が義務づけられた装備がどんどん増えている。それらの内容を詳しく見てみよう。
-
NEW
ルノー・アルカナ エスプリアルピーヌE-Techフルハイブリッド(FF/4AT+2AT)【試乗記】
2024.10.9試乗記「ルノー・アルカナ」のマイナーチェンジモデルが上陸。これからのルノーブランドを象徴するフロントマスクと、スポーティーな内外装デザインが目を引く新グレード「エスプリアルピーヌE-Techフルハイブリッド」のステアリングを握り、その仕上がりを確かめた。 -
NEW
「N-BOXジョイ」にできて「N-BOX」にはできないこと あるいはその反対
2024.10.9デイリーコラム主役は遅れて……ということで、ホンダが「N-BOXジョイ」をリリースした。「N-BOX」にアウトドア要素を加えたかのような軽スーパーハイトワゴンだが、果たしてN-BOXとは違うどんな体験ができるのか、逆にN-BOXから失われた点はないのかを検証した。 -
第806回:ホンダの未来はバラ色か? 次世代BEV「ホンダ0シリーズ」の試作車をドライブした
2024.10.9エディターから一言2024年の初頭に発表されたコンセプトモデルで話題をさらった新たな電気自動車の「ホンダ0(ゼロ)シリーズ」。発売まであと2年というタイミングで希少な試作車をドライブするチャンスを得た。果たしてホンダの描いたのはどんな未来なのだろうか。 -
ロータス・エミーラ ファーストエディション(MR/8AT)【試乗記】
2024.10.8試乗記最高出力365PSのAMG製2リッター直4ターボエンジンを積むミドシップスポーツ「ロータス・エミーラ ファーストエディション」に試乗。車両重量1.4tの軽量なボディーと、AMGユニットが織りなす「ロータス最後のエンジン車」の走りを報告する。 -
クルマはなぜ6年前後でモデルチェンジされるのか?
2024.10.8あの多田哲哉のクルマQ&A近年はバラつきもあるとはいえ、クルマのモデルチェンジがだいたい6年ごとに行われているのはどうしてか? つくる側にはどんな理由があるのか、長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた、多田哲哉さんに聞いた。 -
ボルボEX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ(RWD)【試乗記】
2024.10.7試乗記当初の電動化計画を調整すると発表したボルボだが、全EV化に向けての信念はゆるがない。今回は、その象徴ともいえる新世代モデル「EX30」に試乗。首都・東京から古都・京都を目指すロングドライブでの印象を報告する。