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Japan Advanced Semiconductor Manufacturing

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Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社
種類 株式会社
市場情報 非上場
略称 JASM
本社所在地 日本の旗 日本
869-1102
熊本県菊池郡菊陽町大字原水4106番地1
設立 2021年12月10日
法人番号 1330001029277
事業内容 ファウンドリ、半導体素子の製造・販売など
代表者 ワイエイチ・リャオ(代表取締役会長)
堀田祐一(取締役社長)
資本金 71,444百万円 ※
総資産 208,667百万円 ※
決算期 12月末
主要株主 (2024年2月6日現在)
特記事項:※2022年12月期決算公告[1]
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Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリングかぶしきがいしゃ、JASM)は、世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリ)である台湾積体電路製造(TSMC)が過半数を出資する子会社で、ソニーセミコンダクタソリューションズデンソーが少数株主として参画している企業である。その後、2024年2月6日には、トヨタ自動車が参画した。

概要

1997年TSMCは日本法人を設立し、日本の顧客との間で直接接点を持つようになった[2]。JASMは、2021年12月設立、熊本県菊池郡菊陽町に本社を置く企業である[3][4][5]

工場は菊池郡菊陽町に2022年4月から建設を開始し、2024年から12/16nmFinFETプロセスと22/28nmプロセス技術を用いた半導体を月産能力で12インチウェハで55,000枚生産する予定。

また2024年の生産開始時には同所に本社を移転する予定である。JASMは、工場設置などにより約1,700人の先端技術に通じた人材の雇用を創出する見込みである[5][6]。隣接地にはソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの本社・熊本テクノロジーセンターがある[7]。ソニーは、JASMの工場に570億円を出資し、200人を派遣する予定である[7]。ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの山口宜洋社長は、世界的に半導体が不足する中、すぐ隣から半導体部品を調達できるメリットは大きいと述べている[7]。最先端の技術を持つTSMCと連携することで、ソニーは自社の技術力の向上や半導体産業の人材育成につながることを期待している[7]

日本でのTSMC

2019年にTSMCは「TSMCジャパンデザインセンター」を設立してグローバルな顧客に設計サービスを提供し、茨城県の3DIC研究開発センターでも日本のパートナーと協力して高度な���ッケージング技術のフロンティアを広げているが、JASMは、1997年の日本法人設立以来の、長年に渡り日本の半導体エコシステムと協力してきたTSMCの歴史における新たな章[8]と位置付けれられている。

また、日本の半導体産業にとって、今回のJASMの設立や工場設置は半導体産業の再生に向けた重要な一歩であり[9]、日本国政府は今回の工場設立や同様の流れを継続させるための積極的な支援策を検討[10]している。また、自動車や家電製品などの基幹産業を守るため、世界的な基幹部品の需要に対応する有効な手段[11]としても期待されている。 また、熊本県知事の蒲島郁夫は、朝日新聞のインタビューで、 TSMCを支援するため、人材確保などの課題に県庁ぐるみで取り組む考えを明らかにし、「熊本が日本経済発展の一翼を担いたい」と述べた[12]。  

JASMに関する話題

2021年11月のJASM発表の際、ライトストリーム・リサーチのアナリスト・加藤ミオはシンガポールの市場調査会社・スマートカルマ(SmartKarma)に対し、「この工場は日本の半導体産業にとって先端ロジック能力を拡大する上でプラスになり[13]ソニールネサス エレクトロニクスといった日本の顧客との関係強化につながる可能性がある」と書いている。また、週刊ダイヤモンドの記事では、「日本の半導体業界の再起を促す画期的な決断」と評されている[9]

なお、JASMが工場を建設している熊本県は、1960年代に三菱電機NECのウェハファブの拠点として、九州がシリコンアイランドと呼ばれるようになった経緯がある[14]。日本の半導体産業の中心地として発展し、現在でも、三菱電機やソニー、東京エレクトロンなど日本の半導体企業の多くが熊本県に拠点を置いている。また、JASMが立地する熊本県菊陽町の隣町、熊本県上益城郡益城町には熊本空港があることや、熊本港八代港にも近く、中国などアジアなどへのアクセスも容易な点がある。

それだけではなく、熊本県菊陽町及び近隣の合志市には生産設備を製造する東京エレクトロン熊本事業所、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング熊本工場が立地しており、工事の監督、設備の搬入、行政への対応などの点において他地域より有利な点があることも指摘されている。反対に言えば、ハードウェアと呼ばれる「物」、行政対応という「ソフト(情報)」の両面で評価されたためであると指摘されており、単純に「水資源」のみで評価されたわけではないことは特筆に値する。

JASM設立の経緯

2019年5月のアメリカによるファーウェイへの大規模な規制や、中国台湾の緊張の高まりを受け、経済産業省内では日本が半導体を入手できなくなるのではないかという懸念が高まり、TSMCの工場を日本へ誘致しようという活動が始まった[15]

ソニーは撮像素子を自ら製造していたが、その素子と組み合わせるロジック半導体はTSMCが製造しており、その規模はTSMCの日本での売り上げの半分以上をソニーが占めるほどだった[16][17]。2020年7月、ソニーはTSMCに対し、ソニー専用の半導体製造工場を新たに設置するよう求め、TSMCは別の会社の台南にある工場を買い取ることでソニー専用の28nm生産ライン(Fab14B)を作ろうとした[18]

2020年末からのチップ不足英語版により、経産省の懸念が現実のものになった。また2021年4月、バイデン米大統領は政権として初の外国要人の面会に菅義偉首相を選び、台湾有事が起こった場合の半導体供給の懸念について話し合った[19]。これを受けて、自民党関芳弘甘利明は半導体戦略推進議連を新たに立ち上げ[19]、半導体産業の強化は国家戦略であるとした[20][21]。そして4760億円の補助金のもと、TSMCが台南で進めていたFab14Bの計画を丸ごと熊本へ持ってくることになった[16]

そして、熊本工場の設置においては、該当する合志市及び菊陽町に跨る地域に2026年を目処に熊本県が工業団地を整備する計画が持ち上がっており、さらにソニーグループが傘下のソニーセミコンダクタマニュファクチャリング熊本工場に隣接する約21haの土地を取得しTSMCに提供する用意があったことも要因にある[22]。地下水の問題は、JASMと菊陽町の間で地下水の汲み上げ用量などの合意が得られており、水質調査などにも協力する合意が成立している[23]

2024年2月より試作試験中のFab23において[24]、12nmプロセスの稼働を目指しているのは、次世代画像素子ロジック及び汎用ペリフェラル製品にも適応可能なプロセスだからである。また、このプロセス様式を決定するに当たっての重要な要因としては、顧客が保有する既存の設計ツールの変更を伴わずに、必要なチップを入手できるようにするためでもあった。

沿革

  • 2021年(令和3年)12月 - JASMを設立。熊本県熊本市中央区下通1-3-8に本社(仮事務所)を設置
  • 2022年(令和4年)4月 - 熊本県菊池郡菊陽町に工場を着工
  • 2023年(令和5年)9月15日 - JASM本社を菊池郡菊陽町大字原水4106番地1に移転
  • 2024年(令和6年)2月6日 - 親会社のTSMCより、トヨタ自動車が資本金2%相当の出資をすると発表[25]。これにより、持ち株比率は、TSMC86.5%、ソニーセミコンダクターソリューション6.0%、デンソー5.5%、トヨタ自動車2.0%となる。
  • 2024年(令和6年)2月6日 - 2024年(令和6年)末までに熊本県内に第二工場の新設を検討すると発表。稼働予定は2027年度末を見込む[26][27]
  • 2024年(令和6年)2月24日- JASM fab23開所式[28][29]
  • 2024年(令和6年)末までに fab23にて量産開始(予定)。

脚注

  1. ^ Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社 第2期決算公告 | 官報決算データベース
  2. ^ TSMC Japan Limited”. TSMC (TWSE: 2330, NYSE: TSM). 2021年2月25日閲覧。
  3. ^ Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(株)の新卒採用・会社概要”. 2022年3月23日閲覧。
  4. ^ TSMC熊本工場にデンソーも出資、車載用ロジックデバイス製造の「深謀」」『サンデー毎日×週刊エコノミストOnline』2022年3月1日。オリジナルの2022年3月1日時点におけるアーカイブ。
  5. ^ a b TSMC熊本工場、4月にも着工へ 人材募集も開始」『熊本日日新聞』2022年2月25日。2023年7月25日閲覧。
  6. ^ TSMC 熊本の半導体工場4月着工、来年9月までに完成”. 読売新聞オンライン (2022年3月1日). 2023年7月25日閲覧。
  7. ^ a b c d ソニーグループ新戦略 半導体 世界大手とタッグ”. NHK. 2022年5月20日閲覧。
  8. ^ 特別トップインタビュー 誠実かつ信頼を理念に最先端プロセスを通じて顧客とマーケットを結ぶ」『日経XTECH』2021年12月20日。2023年7月25日閲覧。
  9. ^ a b ソニー・TSMC合弁が、日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由」『DIAMOND online』2021年12月28日。2023年7月25日閲覧。
  10. ^ “Japan Considers a Semiconductor Fund to Support TSMC and Chip Industry Revival”. TechTAIWAN. (2021年10月20日) 
  11. ^ TSMC announces plans to build first chip plant in Japan」『NIKKEI Asia』2021年10月14日。2023年7月25日閲覧。
  12. ^ TSMC進出、県庁ぐるみで支援 蒲島知事インタビュー」『朝日新聞』2021年12月28日。2023年7月25日閲覧。
  13. ^ TSMC to Set Up $7 Billion Japan Plant With Help From Sony」『Bloomberg』2021年11月9日。2023年7月25日閲覧。
  14. ^ 曾在90年代被美國打趴的日本半導體,會在台積電進駐後從九州開始「復興」?」『Citi ORANGE』2022年1月13日。2023年7月25日閲覧。
  15. ^ 日本放送協会 (2021年10月22日). “TSMC 日本進出の舞台裏は? | NHK | ビジネス特集”. NHKニュース. 2024年2月23日閲覧。
  16. ^ a b 「TSMC熊本進出」のあまり語られない本当の理由”. 東洋経済オンライン (2023年12月12日). 2024年2月23日閲覧。
  17. ^ 株式会社インプレス (2021年10月18日). “日本に「最新でない半導体工場」を作る理由。TSMC新工��【西田宗千佳のイマトミライ】”. Impress Watch. 2024年2月24日閲覧。
  18. ^ ysmedia. “台湾ビジネスの情報サポート | ワイズコンサルティングG”. 台湾ビジネスの情報サポート | ワイズコンサルティングG. 2024年2月23日閲覧。
  19. ^ a b 膨らむTSMCへの補助額 「防波堤も必要」財務省が突きつけた条件:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年2月26日). 2024年2月29日閲覧。
  20. ^ 安倍前首相、「異次元」の半導体産業支援が必要-自民が議連設立”. Bloomberg.com (2021年5月21日). 2024年2月23日閲覧。
  21. ^ 自民党「半導体戦略推進議連」立ち上げ 政策づくり提言 – 一般社団法人 日本自動車会議所”. www.aba-j.or.jp. 2024年2月23日閲覧。
  22. ^ ソニー、TSMCの工場新設に協力表明 熊本の用地提供を検討か:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2021年10月28日). 2024年2月24日閲覧。
  23. ^ 日本放送協会. “TSMC子会社と地元自治体などが地下水維持に向け協定|NHK 熊本県のニュース”. NHK NEWS WEB. 2024年2月24日閲覧。
  24. ^ 服部毅. “台湾TSMC社のファブ23はどこにある?ファブ23フェーズ1とは何?”. セミコンポータル/Semicon Portal. 2024年2月25日閲覧。
  25. ^ JASM Set to Expand in Kumamoto Japan”. TSMC (TWSE: 2330, NYSE: TSM). 2024年2月22日閲覧。
  26. ^ TSMCが熊本第二工場建設を発表、6nmプロセス導入 27年末の操業開始へ”. EE Times Japan. 2024年2月23日閲覧。
  27. ^ TSMC、熊本に第2工場建設へ-トヨタやソニーGなど出資”. Bloomberg.com (2024年2月6日). 2024年2月23日閲覧。
  28. ^ TSMC創業者「日本半導体再興の始まり」 熊本工場が開所”. 日本経済新聞 (2024年2月24日). 2024年2月24日閲覧。
  29. ^ TSMC第1工場で開所式 岸田首相、第2工場への財政支援表明”. 毎日新聞. 2024年2月24日閲覧。

外部リンク